私たちの暮らしの中で、動物は大切な家族であり、心を癒やしてくれる存在です。しかしその一方で、動物から人へ、または人から動物へ感染する病気――「ズーノーシス(人獣共通感染症)」という問題も、私たちが知っておくべき大切なテーマです。
ズーノーシスにはさまざまな種類があり、身近なペットや野生動物から感染することもあります。たとえば、犬や猫の口の中にいるパスツレラ菌は、咬まれた傷口から感染して腫れや痛み、発熱を起こすことがあります。
また、同じく犬や猫の唾液に含まれるカプノサイトファーガ菌は、まれに敗血症や意識障害を引き起こすこともあり、免疫の弱い方では重症化することがあります。
鳥類から感染するオウム病は、感染した鳥の糞や分泌物を吸い込むことで感染し、高熱や咳、肺炎様症状を起こします。妊婦が感染すると流産や早産のリスクが高まるため、鳥の飼育やケージ掃除はできるだけ他の家族に任せ、どうしても行う場合はマスクと手袋を使用し、十分な換気と手洗いを行いましょう。
さらに、マダニを介して感染する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、発熱、嘔吐、出血傾向などを示し、重篤化することがあるため注意が必要です。
これらの多くは、日常の中で少し意識をするだけで予防が可能です。動物に咬まれたり引っかかれたりした際はすぐに流水でよく洗い、必要に応じて医療機関を受診しましょう。ペットの定期的な健康診断やワクチン、ノミ・マダニ予防も、家族全員の健康を守る大切な一歩です。特に高齢者や小さな子ども、免疫の弱い方、妊婦の方は注意が必要です。
感染症を恐れる必要はありません。大切なのは、「正しく知り、正しくつきあう」ことです。ペットを清潔に保ち、トイレや食器の管理を適切に行い、手洗いを習慣にすることで、ほとんどの感染症は防ぐことができます。
動物と人との関わりは、お互いの心と体の健康を支え合う関係です。ズーノーシスを理解し、予防を実践することは、人と動物が安心して共に生きる社会を築く第一歩となります。
文責:獣医師 髙木彩花
2025年10月30日













